教育用GM管開発を振り返って(3)

クリアケースGM管の標準化


高校授業でのGM管の組み立てを実践して、この作業自体は生徒の評判も良く、それなりの手ごたえが感じられるが、課題がいくつか見つかった。一つ目は完成までに時間がかかること、二つ目は個別指導に手間がかかるので講師のほかに助手を多く必要とすること、三つめは生徒間でGM管の出来栄えに差が出やすいので、不満材料になること、四つ目は生徒全員分のパーツを事前に用意しなければならないこと、である。高校レベルでは、本来、定性的な放射線の検出ではなく、定量的な計数実験が重要となる。そこで、授業においては、時間の制約も考えて、GM管工作は止めて計数実験ができるような改良が必要と考えた。つまり、まずはGM管の既製品化である。


改良点は、GM管側から出るアノードとカソードの接続端子を、2mmのビス・ナットとして簡素化かつコストダウンしたこと、それに伴って、アノードの支持は、中央のビスの頭に虫ピンを約半分に切ってはんだ付けし、カソードのアルミテープは、容器内壁に貼り付けて、その根元でビスを貫通させる構造としたこと、アノードの構成を変更して、線径0.23mmのステンレス線を二つ折りした後に、指だけでよじって先端部に直径2mm程度のフープを作り、根元から2cm長さに切ったビニール被覆に通して、根元の5mm程度を折り返して、その上に熱収縮チューブを被せて絶縁したこと、の3点である。指だけでよじるのはステンレス鋼が硬くてフープを直径2mmまで小さくするのは大変だが、工具を使うとアノード線に傷をつけるので使ってはいけない。この結果、クリアケースGM管の特徴の一つである構成要素の自由な選択を残しつつ、外部的な構造は標準化することができた上に、アノードの長さとか線径、線長、あるいは形状、カソードの材質などをパラメータとした実験が可能になった。


併せて高電圧電源の改良を行った。これまでは駆動電圧6Vで、5000V強の電圧を固定的に出力できていたが、やや電圧が不足している印象を受けたうえ、電圧が可変でないと、特性がまちまちのGM管に対応できないケースが多く発生する。そこで、駆動電圧を9Vに上げ、さらに駆動電圧を可変とすることで、出力電圧を最低2000V程度から最高6000V程度まで広範に変化させることができた結果、クリアケースGM管のいろいろな特性を調べることができた。それらの結果は前述の放射線教育支援サイト「らでぃ」の、ホーム>教材>実験集に詳しい。具体的には、黒画用紙が金属カソードと遜色ないこと、管全長のアノードより二つ折りアノードの方が高性能なこと、黒画用紙カソードはγ線の検出率が低いこと、ブタン濃度の許容幅がある程大きいこと、などである。なお、これらクリアケースGM管基本型の自作方法についても詳しく図解入りで実験集に掲載している。自作に関心ある方々には一読をお勧めする。


計数の工夫


前述のパラメータ・サーベイでは、計測回路には秋月電子製のキットを参考にしつつ、入力段にオペアンプを入れてバッファーとディスクリミネーター機能を持たせた。計数は、液晶ディスプレイに表示して、ロジックICでパルス音と表示用LEDの動作をはっきりさせる目的の保持時間約1msecを作った。外部出力はシリアル出力でRS232Cに準拠した。パソコン側では、Visual Basic 6でプログラムを作り、計数のログを取れるようにした。この計数装置を標準化すれば授業でも使えるのだが、自作で測定器の数をそろえるのは難しい。


そこで、まず、パソコンやタブレットを計数装置として利用することを考えた。GM管からの電圧パルスを音声信号と捉えて、マイク入力端子からパソコンに取り込んで、プログラムで処理することとした。実は、このアイディアは既にあって、アプリとして公開されていたが、必ずしも教育目的ではないので、そのまま使うわけにはいかない。やはり。カスタマイズの必要があった。


最初はプログラムを開発して、学校側のパソコンなり、タブレットなりにインストールしてもらうことも考えたが、学校サイドではプログラムのインストールは制限されていて、無理があった。そこで、タブレットを用意して、アプリをインストールしておいて、それを貸し出すという方法に切り替えた。この方法ならば、プログラムが問題になることもない。


早速、秋葉原で格安タブレットを購入したが、これが見事に安物で、タッチパネルがまともに動作しない。とくに四隅がダメなので、結局、マウスで操作する羽目になった。このアプリは公開していないが、結構優れもので、パルス波形がオシロスコープ的に掲示表示され、それを見ながら印加電圧やデイスクリミネーションのレベルを調整できる。Visual Basic 6のプログラムなので、コマンドボタンで計数動作を選択できるようにした。これまでに授業実践の経験から、計数は1秒率と10秒率をメインとして、30秒率も選択できるようにした。高校理科の計数実験であれば、10秒率を6回繰り返せば十分信頼できるデータが取れる。このアプリはログが取れるようにしたので、必要があればCSVファイルを取り出して、Excelなどのパソコンソフトで詳細なデータ処理もできる。本来ならば、そこまで授業でやりたいが、授業時間の制約は何ともし難い。


次の写真は、タブレットによる計数を高校で実践した際の、装置のレイアウトである。発泡スチロールの板に穴を開けて位置決めをし、さらに距離の実験が進めやすいように、距離が両対数グラフでほぼ等間隔になる位置に線源を置けるスリットを刻んである。タブレットの位置は高電圧電源の干渉を受けないように離れた位置とした。

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学校の授業での問題点と解決法


パソコンを使う計数方式は、今後のICT教育の普及に即した方法ともいえる。データを取りながら、データ処理ができるので、様々な課題を提供できる。さりながら、現在の、Visual Basic 6のプログラムを使うのが良いかどうかは判断が分かれる。そこで、プログラム学習の要素も持ち、実際にデータ取得やデータ表示が可能な言語として、Pythonを使用したプログラムのひな型を用意した。


Pythonならば、すでに学校でも使われ始めており、オープンソースで使用できるライブラリーも充実している。参考例も多く公開されており、プログラム作成に役立つ。「らでぃ」の実験集にはそのひな型を掲載した。


貸出機器の場合、学校の出前授業が中心なるが、理科室が使えない場合もある。その場合は、電源の確保が大いに課題で、少ないコンセントからたこ足配線でテーブルタップをつなぐ必要がある。班ごとにテーブルタップを用意するのは、結構大変で手間もかかる。高電圧電源は、最初は9Vの電池を使用していたが、電池の消耗がかなり早くて、計数の維持が難しいことが分かった。そこで9VのACアダプターを使用して比較的安定な印加電圧を出力することができたが、その後は12Vの電池パックを用意して、電池駆動とすることにした。12Vとしたのは、電池の電圧が徐々に低下しても、高電圧電源の安定化回路で9Vが維持できるマージンが大きいためである。


密閉型GM管の導入


クリアケースGM管の利点として、蓋を被せる方式なので、内部の構造や構成、あるいはラドンなどを線源として使用し、α線の検出器としても使えることを挙げたが、逆に言えばガスの漏れは防げない。実際は、数時間の使用中は大きな変動はないが、翌日はもう無理であった。そこで、密閉型のGM管を作ることにした。クリアケースの場合は、たまたま適当な容器として利用できたが、同程度のサイズで厚肉の容器はなかなか見付からなかった。いろいろ考えた末に、容器の胴と天板を別々に作って接着し、端窓は薄いプラスチック・フィルムを胴に貼り付ける方法を考案した。


胴は円筒の材料でよいが、接着を確実にするには、ある程度の厚みが必要となる。また、このような既製品はないので、胴を切断で作るとすれば、加工しやすい材料が望ましい。結局、胴は塩ビパイプとした。簡単に切れて、しかも安い。天板も円板の既製品は高いので、作ろうと思ったが、アクリル板では硬くて切れない。そこで、ABS樹脂で厚さ2mmの板を見つけて、使うことにした。透明である必要はないので、黒い板を使った。ハサミで円板を切り出し、端部をサンドペーパーで仕上げた。胴の方はやや難しい。端部を垂直に仕上げる必要があるので、まず治具を作り、目の細かいノコギリで接岸した後、端面が平滑になるまでサンドペーパーで仕上げた。これは漏れのない接着に欠かせない作業である。端窓は、薄い方が良いが、丈夫さも考慮して、厚さ0.1mmのOHPシートやパウチシートを利用した。接着剤の選定も難しいが、塩ビやPETでも接着できる万能接着剤があるので利用した。接着と言いながら、実際は貼り付けているだけのような感じがするが、それでも密閉には十分に機能する。天板には、ノズルを設けてガスの注入ができ、かつ、密閉にはノズルに密着性のキャップを被せて封止することにした。ノズルは細いので、ガスの注入には細目の針のシリンジを使用する。アノードとカソード、接続方法については、クリアケースGM管と同様にした。ただし、ノズルがあるために、高電圧電源とのドッキングには方向性ができたが、アノードとカソードを取り違えて差し込まないようにするためには役に立った。この密閉型GM管の作り方も、放射線教育支援サイト「らでぃ」の実験集に掲載した。10数個製作した密閉型GM管のうち半数程度は3年以上も性能を維持している。


7セグメントLED表示による計測機能のビルトイン


計測機能をパソコンやタブレットで実現する方法は、例えば自作の場合は有効な手段になる。比較的簡単な高電圧電源さえ自作できれば、計測回路を自作する必要はない。Pythonでパソコンにプログラムを導入するのは簡単で、「らでぃ」実験集にひな型のプログラムは載せてある。しかし、学校での授業で使用するには、計数表示ができる計測器が望ましいと考えた。実はこれまでも既に開発した液晶表示による計数回路の利用を考えたが、計測部分を別のユニットにするのは、接続などの手間が問題になる。できれば、高電圧電源の中に計数化路が組み込めないかと考えてはいた。問題は、入手できる2行8桁の液晶表示器は、残念ながら使用しているプラスチックケースには収まらない。2行8桁でなく、1行4桁とかなら入るが、これは小さすぎて表示が読みにくい。


そこで、同じ4桁で良いなら、7セグメントLED表示ではどうかと考えた。これならば、明るくはっきりと数値が読める。多少、駆動回路が複雑になるが、高電圧電源の中には組み込める。この方針で、統合型の教育用放射線測定器が出来上がった。当然、計測器といっても、教材なので性能はまちまちだが、ある程度の再現性と安定性は担保できた。理科の計数実験において、信頼できるデータを得るには十分である。ただし、7セグメントLED表示における計数値は、1秒率と10秒率を切り替えるだけのプログラムとなっている。それに合わせて、授業用に、遮へい厚さ・材質の実験、距離の実験、半減期の実験、統計的変動の実験のワークシートを用意した。統計的変動の実験以外は10秒率を6回測定するのを基本としている。装置は1秒率で起動し、プッシュボタンを押すと10秒率に切り替わり、1秒毎のカウントダウンを表示してから10秒率を表示して保持する。再度プッシュボタンを押せば、次の10秒率の測定ができる。


いちいち表示を読み取る作業が必要で、ログは手書きになる。面倒と思うが、実は、授業には適している一面もあった。パソコンにデータを取り込んでおければ、表示を読む手間が省けると考えるが、実は何も作業しないという欠点がある。実験をした実感が得られないという訳である。実際、授業実践では、1秒率で統計変動の計数を100点採取するという課題を出したら、わき目も降らずに実験に没頭していた。つまり、手作業はある程度不可欠という結論になった。遮へいの実験では遮へい体の追加や交換が作業となり、距離の実験では位置の移動が作業となる。ただし、これもやろうと思えば一人でできてしまう作業なので、役割分担を考えないと遊ぶ生徒ができてしまう。指導では、セッティング係、読み取り係、記録係などと役割分担することで、実験の効率化を図りつつ、1班4人での実験に合うように工夫している。


(※id:TJOid:apgmmanから受領したWord原稿を元に再構成、代理投稿したものです)