教育用GM管開発を振り返って(6)

自作GM管の代表格である「大気圧空気GM管」は「空気GM管」とも称される。なぜ、ここで「空気」を取って「大気圧GM管」としたかなど、本質的な話題について語ります。

大気圧GM管のポイント


開発の初期に、管のサイズや、アノード、カソード、ガス組成などをパラメーターとした実験を行い、候補を絞り込んだ。その結果が、クリアケースGM管になり、塩ビ管を容器とする密閉型のGM管に至っている。現在は、さらに簡素化して、密閉型GM管のガス注入ノズルを排して、半密閉にするという改良を進めている。半密閉というのは、注入孔に蓋を接着するが、必要に応じて蓋を剥がしてブタンを再注入できるというもの。自作なのでGM管の性能が所定の基準に満たない場合がある。その場合に、必要に応じて内部パーツやガスを交換できるようにしておけば、再生が可能になる。ガス交換を例に挙げたが、アノードを交換する場合は、端窓を一旦剥がし、交換後に修復する。実は、塩ビの容器と天板の加工にもっとも手間がかかるので、これらが再利用できれば残りの手間は少ない、というのがその理由である。この改良した密閉型GM管は最近のテストでは、1ヵ月以上もほぼ性能を維持しているが、今後、テストを継続して性能の維持期間を見極める。


改めて強調するが、「大気圧GM管」の基本的構成要素は、二つ折りで先端フープのアノード、線材はステンレス鋼、黒画用紙のカソード、充填ガスは10%程度のブタン+空気、の3点である。これらは、クリアケースGM管で確立し、密閉型GM管でも継承されている。外部構造としての、高電圧電源との接続を露出部のないプラグイン方式も一貫して採用している。エビデンスは「らでぃ」の実験集に載せたので、以下ではポイントについて解説する。


アノードについては、基本的に米村式の二つ折りアノードを採用している。電界解析でも、通常の円筒形GM管のような全長の単線アノードよりも、中間長のアノードの方が先端部での電界強度が大きいことが分かっているが、実験結果でもその傾向は支持されている。一般的には線材は細い方が、より電界強度が高くなる。つまり、動作電圧が低くなって有利に働く。しかし、先端部にフープがある場合は違う結果となる。要するに、先端フープがあることで線径の効果が打ち消される一方、先端部での電界強度が効果的に効いてくる。先端フープの径をパラメーターとすると、径が小さいほど電界強度は大きくなるが、極端に小さい、例えばフープなしにすると、放電が不安定になり、プラトー領域も極端に狭くなる。したがって、最適なフープ径は2mm程度と考えている。実はステンレス鋼をアノードに加工する場合、先端フープを径2mmに仕上げるのは工具なしでは難しい。ではどうするか。二つ折りにした他端をラジオペンチで挟んで、指でよじり、ある程度の径になったら、楊枝の先を使って2mmに仕上げることができる。アノードの先端には工具で傷を付けたくない。ステンレス鋼を使用する理由は前にも書いたが、銅線に比べて汚れが付きにくく、酸化しにくいことにある。白金線ならば加工はしやすいと思うが、極めて高価で自作には向かない。ステンレス鋼の線径は、0.23mmを継続的に採用しているが、知る限り、ホームセンターなどで入手できる最小の線径である。アノード・ユニットはピンに刺すだけという形状の特徴があって、交換が容易なように配慮している。

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初期の「大気圧空気GM管」のカソードは、ただ紙製としか書いていないが、白画用紙と考えられる。黒画用紙にしたのは、仲間内の情報からで、紙に墨汁を塗って乾かすとカソードに使えるというものだった。あるいは、コピーの印刷面でもよいという情報もあった。黒画用紙にしたのは、カーボンが含まれているからで、導電性があると考えていた。実際、長方形のカソードの形状で、その両端をそれぞれクリップで挟み、その間の抵抗値を測ると、100kΩから400kΩであった。実際に実験すると、この範囲ではそれほどプラトー特性に違いはない。しかし、あるとき、別の黒画用紙を買ってきて同様にして抵抗値を測ると、無限大になっていた。どうも炭素を含まない黒画用紙もあるようで、よく見るとやや緑がかっていた。それ以来、黒画用紙を買った後は、必ず抵抗値を測定するようにしている。実は、白画用紙でもプラトー領域が高電圧側にシフトし、やや計数値が低下するが、測定できなくはない。カソードの導電率が影響しているとすると、金属カソードの方が有利に思える。ではなぜ、黒画用紙なのか。金属カソードは、アルミと銅とステンレス鋼を比較したが、どれも大きな違いはない。銅は酸化や汚れに弱いので使いにくい。ステンレス鋼は硬すぎる。使うとするとアルミなので、黒画用紙と比べてみると、少なくともプラトー領域や計数率の面で黒画用紙が劣っている訳ではないことが分かった。また、黒画用紙の利点は、γ線に対して感度が低い点にもある。GM管をβ線検出器として利用したい場合、γ線が少ないほどよい。距離の実験ではγ線β線と込みで考えればよいが、遮へいの実験ではバックグラウンドとして効いてくるので、少ない方が好ましい。金属カソードの難点の一つは、傷が付きやすく異常放電の原因となることである。その点、黒画用紙なら何も気にすることはない。ついでに言えば、黒画用紙は金属カソードよりも圧倒的に安く、自作には適している。

「空気GM管」でないのは何故か


最初の矢野先生の「空気GM管」は、まさに空気だけだった。その後、米村先生がライターガスを消滅ガスとして添加した。ライターガスは、一般的にはブタンが主成分で、プロパンが入っているものもある。ガス自体は液化石油ガスというカテゴリーにあって、ブタン濃度が高いほど高級とされる。初期の「大気圧空気GM管」はほとんどライターから直接GM管内にガスを注入している。ガスの濃度の記述はない。道具なしで定量のガスを注入するのは極めて難しい。そこでシリンジを使うことにした。これならば定量のガスを注入できるので、厳密ではないがある程度ガス濃度のコントロールができる。その後に分かったことだが、多少濃度が変わっても、それほど性能には影響がない。これまでの失敗例を聞くと、ライターの選定だったり、ガスの注入量が適当だったりしたことが原因と思われる。


現在、使用しているのは高純度ブタンという表示のあるライター充填用のガスボンベで、プロパンの混入は極めて少ない。断っておくが、カセット式のガスコンロにつかうブタンガスもGM管には使える。ただし、ガス漏れを防ぐための悪臭がある。プロパンは試していないので、使えるかどうかは分からない。パラメーター実験では、10%から50%の範囲でブタン濃度の上昇とともにGM管の動作電圧が線形で上昇した。10%を選択したのはこの結果を受けたもので、さらにブタン濃度を減らせばより動作電圧としては有利になると思ったが、濃度のコントロールが難しくなるので止めた。


オシロスコープ観察からは、ブタン濃度が増えると複数パルスの発生が減少するので、消滅ガスとしての作用は認められる。しかし、容量%でブタン濃度50%となると、重量%ではブタンの方が多くなる。10%ブタンならともかく、50%ブタンにもなると、さすがに「空気GM管」なのか迷うところだ。その後、0%ブタンつまり100%空気から、100%ブタンまでブタン濃度をパラメーターとするオシロスコープ観察でパルスの数を数えて計数に換算した。その結果、0%ブタンでも100%ブタンでも計数は可能で、動作電圧の最小値は2%から5%ブタンであった。ブタン濃度度が増えると、ほぼ直線的に動作電圧が上昇し、0%ブタンでは極めて高い動作電圧となることなどが分かった。100%ブタンとなると、もはや「空気GM管」ではあり得ない。その中間も空気が主な電離気体なのか疑わしい。というのは、空気もブタンも同程度の電離電圧なので、どちらも電離気体の候補になる。消滅ガスの役割は炭化水素であるブタンのものだが、電離気体がどちらなのか、あるいは両方なのかは分からない。5%前後で動作電圧が最低になるのも、何か理由があるはずだが調べても分からない。


このように考えて、「空気GM管」とは呼ばずに、「大気圧GM管」と呼ぶことにした次第。


(※id:TJOid:apgmmanから受領したWord原稿を元に再構成、代理投稿したものです)