教育用GM管開発を振り返って(14)

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放射線教育支援サイト「らでぃ」の実験集にも掲載したが、教育用GM管開発は結果として開発段階に応じた3タイプを残したことになる。クリアケースGM管、タブレットGM管、7セグメントLEDGM管である。これらの使い分けについて考えてみたい。


クリアケースGM


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既に述べたが、開発すべきGM管の候補を絞り込むためのパラメータ実験では、既にLCD表示の計数器で、パソコンにデータを取り込むためのRS232Cポートを持ったGM計数管ができていた。当然、自作で、以前に作った秋月電子製のGM管キットの回路を参考にしつつ、ブロッキングオシレーターと多段の倍電圧整流による三門先生伝来の高電圧回路と組み合わせた一体型のGM計数管であった。当初の開発目標が、安価なGM管と安価な計数・表示装置で、パソコンでログが取れ、印加電圧は1000V以内にといいう要望まで入っていたので、何とかその方向でと努力したが、まず、GM管で挫折した。


1000V以下で稼働するには、GM管はガス置換して1/10気圧程度の減圧で封じきる必要がある。ということは、市販品と同程度の製品を安く作れということに等しい。国内でGM管の製造が危ぶまれるようになった理由は、端窓の雲母膜を作れる職人がいなくなったからと聞いた。1/10気圧となると薄いプラスチックでは無理だ。容器についても、金属製となると簡単には行かない。平滑面を作るにはメッキか蒸着か、いずれにしてもどこかの工場に頼まないとできない。これらを総合的に判断すると、市販品と同程度のものを作
ろうとすると、コストも同程度となると考えざるを得なかった。

その代案が「大気圧空気GM管」だった。基本的な成立条件はパラメータ実験で分かっていたので、既に口径5cmクラスは可能と考えていた。口径5cmは市販のパンケーキ型GM管と同程度なので、計数率としては申し分ない。大気圧なので容器は薄いプラスチックで良い。端窓もプルスチックフィルムで済む。当時、「大気圧空気GM管」のGM管はプラカップサランラップを被せるのが一般的だったが、これでは標準化しにくい。ここで言う標準化とは容易に同じものが多く作れるという意味で、学校の授業ではできるだけ性能を揃える必要があると思っていた。


そこで、偶然に見つけたのが、近くに山積みになっていたクリアケースだった。他の目的で購入したが使われないまま放置されていたもので、たまたまサイズが口径5cm、高さ5cmで、蓋付きだった。プラスチック製で厚さは0.2mm程度。うってつけと思った。プラカップでは円錐形なのでカソードは扇型に切り出す必要がある、蓋がないので、ラップフィルムを被せて輪ゴムで止めるというのも、まったく美的でない。プラカップは手作り感満載だが、イベントならともかく、学校の授業には向いていないと思っていた。そこで、見つけたクリアケースは天啓と言わざるを得ない。


話しは変わるが、高電圧電源の方はというと、仲間内の情報で高電圧ユニットがジャンク品で安く手に入るという。一例では、十分高い電圧が得られるので、分割抵抗で電圧を調整していた。分割抵抗と言っても紙で、紙の両端をクリップで挟み、適当な中間部から電圧を取り出すというしろもの。これも美的ではない。ジャンクなのでいろいろと探し回るうちに現在の冷陰極放電管用の高電圧ユニットにたどり着いた。既に最初に見つけた時より2倍の値段になっていたが、それでも1個200円だったので、在庫のほとんどにあたる100個を買い占めた。それが、いまでも原資になっている。


その後、何回かの改良を経て標準化した。このクリアケースGM管の特徴は、GM管が自作できること、あるいは、用意した部品を組み立てて、自作の雰囲気を味わえることで、生徒には評判が良い。ただし、性能にはばらつきが出やすい欠点もある。最大の利点は、ラドン220の半減期の実験ができることで、クリスタルイヤホンで音を聞くだけだが、徐々に音が少なくなっていくことを実感できる。完成した状態で用意すれば、小学校低学年から幼稚園児までの低年齢層でも安全に扱うことができる。高電圧電源はあえて透明プラスチックケースに入れてあるので、からくりが見えて面白いが、中学生や高校生向けには自作への誘いの思惑もある。


ということで、クリアケースGM管のセットは入門編だが、高校生でもGM管の組み立てなどを加えると十分授業になる。結構楽し気にやっているのを何度も見た。このセットの最大の特徴は放射線を音として検出することで、この音はサーベイメータの警報音とは違って、まさに放射線そのものが作った音である。つまり、他にはない検出手段で、なおかつ感覚的に放射線の存在を理解できる。このことは、計数を必要としない、小学校低学年や幼稚園児あるいは大人に訴える効果が大きい。サーベイメータではできない機能ともいえる。逆に言えば、定性的な実験には最適だが、定量的な実験には向いていない。例えば、ラドン220の実験では、実際は徐々に数が減っていくので、そのように聞こえるはずだが、多くの生徒は音が小さくなっていくと回答している。感覚というのは、そのような捉え方もあるので、注意が必要になる。感覚というよりは、言葉の表現の問題かもしれないが、放射線を音として聞くことの限界かもしれない。


結局、クリアケースGM管用に開発した高電圧電源は、可変抵抗器を付けて高電圧を可変にするなどの多少の改変を加えながらも、標準型の電源として、使用を続けている。


タブレットGM


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高校の授業で使用するには、計数機能が必要になる。距離の実験、遮へいの実験、統計的変動の実験、ラドン220の半減期の実験など、データを取って解析するには、安定した高電圧電源とGM管が必須となる。これまでのクリアケースGM管では、高電圧は可変抵抗器で調節すればよく、計数機能はないのであくまでもアバウトで済んだ。クリアケースGM管は蓋をするタイプなので、どうしても長時間の安定性に欠ける。実際に計数をしてみると、計数率は徐々に低下していく。1コマ程度の授業時間なら何とか維持できるが、翌日はもう使えない。また、高電圧電源も9Vの電池駆動なので、高電圧が徐々に低下していく。徐々と言ったが、意外と低下は早い。このような事情を考慮すると、密閉型のGM管とACアダプターを使用した安定化電源による高電圧電源が必要と考えた。


タブレットGM管は、計数・表示機能をタブレットに委ねるので高電圧電源は上のような要求が満たせれば、従来型と大きくは変わらない。タブレットに計数・表示のプログラムをインストールさえしておけば、特別な計数・表示装置は不要となる。また、ICT教育の時代になって、タブレットやパソコンにデータを取り込んでおけば、その後の処理にも役立つと考えると、タブレットGM管こそ次世代向けのGM管ではないか、と考えた。実際、学校側にタブレットやパソコンにプログラムをインストールできないかと照会したところ、難しいとの回答があったことが、タブレットを学校に持ち込むことになった理由である。その後は事情が変わっているかもしれないが。


結局、この段階で、塩ビ管を容器とし、ガス注入用のキャップ付きノズルを備えた密閉型GM管が開発された。高電圧電源にプラグインする接続方式は踏襲した。この密閉型GM管は、その後の継続的な測定で、良好なものは数年も性能を維持していることが分かっている。


一方、不具合もある程度出てきて、ブタンの再注入をしても改善されないものもある。密閉と言いながら、貼り合わせた接着剤の接着が不十分で、どこかにリークパスがあるらしい。端窓の方は透明シートなので、接着の具合はよくわかるが、天板は黒いABS樹脂板なので、接着面は見えない。また、ガス注入ノズルも接着しており、キャップを被せて封止しているので、その辺りも怪しいと言えば怪しい。この辺の反省点は、その後の改良版密閉型GM管では配慮されている。天板は透明にし、ガス注入ノズルは止めて、透明な板でガスの注入孔を接着して塞ぐことにした。接着部はすべて目視で確認できるので、信頼性は向上した。


また、性能のバラツキはほとんどがアノードの出来不出来にかかっている。中でも、アノードの先端部の形状がまちまちなのが原因と思われた。そこで、アノードの線材をよじって先端にフープを作る工程で、楊枝を使って先端フープの形状をできるだけ円形とし、その外径も2mmに統一した。アノードの先端付近の露出部の長さも、5mmで揃えた。この結果は、まだ、継続的に測定しているが、密閉性も性能も向上している。


7セグメントLEDGM管


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(初期のタイプ)

4桁の7セグメントLEDで表示する計数・表示回路を高電圧電源に内蔵したコンパクトなGM管である。4桁なので、CPMでの表示は難しく、1秒率と10秒率で表示する。簡単化のため、電源スイッチは省略して、ACアダプターを接続または12V電池パックを接続してスイッチをONすれば起動するようになっている。また、高電圧はプリセットとした。半固定抵抗で調節できるが、生徒がその場で調節しなくてよいように配慮した。1秒率と10秒率の切り替えも、1秒率で起動して、プッシュスイッチを押すと10秒率で計数を始め、10秒のカウントダウンが表示された後に10秒率が表示・保持されるようにした。再度、プッシュスイッチを押すと、次の測定が始まり、これを繰り返す方式となっている。高圧電源は計数・表示回路のノイズ源なので、最小限の隙間を確保するように配慮した。このノイズには悩まされたが、1cm程度間隔を開けたり、高電圧のラインを回路に近づけないように配置したりして、解決した。


7セグメントLEDGM管は、計数値を読み取って記録し、その後にデータ処理をする方式なので、手間ばかりかかるが、実は生徒には忙しい方が良いらしい。何か、やった気になるらしく、むしろ評判は良い。逆に、タブレットGM管はいわば自動測定なので、何もしなくても済むといえば済む。読み取り、記録もできるので、必ずしも何もしないわけではないが、本来、自動測定ができる装置なので、授業で使うには工夫がいるのかもしれない。


7セグメントLEDGM管には、高電圧電源+7セグメントLED表示器、密閉型GM管、放射線源、遮へい板セットが同梱されたケースに入れて、12V電池パックとともに使用されている。授業の際に、無駄なセッティングの時間がないように配慮されており、各実験のためのワークシートも用意されている。かなり、教育用のGM管としては完成された姿になった。


まとめ

クリアケースGM 音で聞く定性的、感覚的。幼児から大人まで。
タブレットGM 定量的。高校生向け。ICT教育にも適応。
7セグメントLEDGM管 定量的。完成度が高い。高校生向け。


(※id:TJOid:apgmmanから受領したWord原稿を元に再構成、代理投稿したものです)