教育用GM管開発を振り返って(16)

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大気圧GM管の自作の成否は、高電圧をどのようにして得るかにかかっている。これまでも多くのチャレンジャーが挑んでは挫折した記録がウエブ上には溢れている。概ね、6000Vが得られれば大気圧GM管での放射線の検出には十分で、1000V程度の原波形が得られれば倍電圧整流に後を託せばよい。ここでは、既に「らでぃ」実験集に掲載した3タイプを比較して解説する。


ブロッキング発振方式


三門の高圧電源*1を参考にし、トランジスタなどは後発品に置き替えた。ブロッキング発振で得た非対称パルスをトランスで共振・昇圧するタイプで、発振周波数は100Hz程度であるが発振波形は信号波形とは区別しやすい。しかし、発振波形は非対称性が極めて強く、倍電圧整流ではほとんど一段おきにしか加算されない。したがって、15段でもせいぜい7倍に止まる。しかも、使用しているトランスは汎用の小型トランスで入手はしやすいが、耐電圧がたかだか数100V程度で、高電圧には耐えない。やや低めの電圧にして使用する必要があり、直接出力は900V程度に止まる。それでも、しばしばトランスが層間短絡して使用不能になる。

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原発振の調整は、2SC3419の、C7とVR5で行うが、C7はほぼ1000pFの固定で済むことが分かった。VR5も20kΩよりも大きい方が良い場合もあるが、ほぼこれで間に合っている。ただし、共振点は極めて狭いので、調整は根気よくする必要がある。むしろ、精密級の可変抵抗器を使った方が確実かもしれない。この調整次第で、得られる原発振の電圧が決まってしまう。次の図は、黒画用紙カソードでモナズ石のβ線を検出した場合のオシログラフで、原発振による約80Hzの負パルスが見えている。

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高電圧の設定は、2SD2012のVR1で行う。5kΩと表示されているが、過熱・焼損しやすく、その後は10kΩに変更している。


チョッパー発振方式


ウエブ情報を参考に、チョッパー発振方式を試してみた。実際、展示模型のパンケーキ型GM管にはこの回路を採用している。約1kHzの矩形波をタイマーICで発振し、耐電圧900VのFETとチョーク・コイルで高電圧を発生させる。9V駆動では約900Vが得られる。多段の倍電圧整流をすれば、5000Vも可能である。本法は市販部品で製作できる代替案の一つであるが、発振波形は非対称でも信号波形とは区別しやすい。ただし、自作の際には、タイマーICの発振周波数とデューティー比の調整には根気が必要で、動作点は極めて狭い。

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NE555の発振周波数は主にC8で、デユーティー比はVR2とR19で調節するが、調整個所が多いと反って調整が難しくなる。C8は0.1μF、R19は100kΩの固定としてVR2で調整する方が楽になる。ただし、VR2の調整範囲外が良さそうとなると、R19を変えることも必要になる。C8についても同様のことが言える。要は、根気しかない。


この回路は、パンケーキ型GM管用に作った回路なので、高電圧は900Vの固定となっている。高電圧をさらに上げるには倍電圧整流を加えればよいが、高電圧の調整は駆動電圧を変えることでは難しい、というか不安定になる。結局、高電圧の調整はVR2ですることになるのが、難点と言える。高電圧を大幅に変えないで済む場合には、使えると思う。

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図の約1kHzの規則的なパルスが原発振のパルスである。計数の判定には支障にならない。


コレクター共振方式


高電圧の発生には、冷陰極放電管用の高圧ユニットのジャンク品を改造した。6段の倍電圧整流により、9V駆動では約6000Vが得られるが、入力電圧を加減することにより、約1000Vから約5000Vが得られる。高電圧は2.2MΩの高抵抗を介してアノードに接続し、カソードからは100kΩの入力抵抗を介して信号を取り出せば、その後の信号処理の自由度は高い。

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銅品の図の破線の中が既製品で、既製品から出力トランス後段のコンデンサーを外して、倍電圧整流回路を追加している。前段は、駆動電圧を加減して、高電圧を調整するための回路となっている。既製品なので動作は安定しており、製品間のバラツキも少ない。簡単な改造で済み、極めて便利である。ただし、ジャンク品なので、既に、同品の市場での入手は多分無理と思うが、冷陰極放電管用の高電圧ユニットは他にもあり、LEDへの置き換わりで液晶ディスプレイの光源としては、そろそろ品薄にはなっているが、秋葉原などでのジャンク品の入手は可能と思う。ただし、製品の性能次第では、高電圧が得にくい製品もある。原発振が500V程度では、5000Vを得るのはかなり厳しいが、原発振は40kHz程度の正負対称のパルスなので、倍電圧整流の段数通りに昇圧できる。

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まとめ


高電圧電源でこれまでに製作実績がある3タイプを解説した。


結局のところ、ブロッキング発振式は単発の自作にはよいが、多数を製作するには向いていない。チョッパー発振式は、高電圧の調整範囲が狭いことに注意を要する。結論的には、ある程度の数の高電圧電源を用意したい場合には、現在、入手可能な冷陰極放電管用の高電圧ユニットや、類似の高電圧発生ユニットを改造するする方法が勧められる。


(※id:TJOid:apgmmanから受領したWord原稿を元に再構成、代理投稿したものです)

*1:三門正吾、放射線教育国際シンポジウム報文集(ISRE 98)、JAERI-Conf 99-011、369-376